「湖に浮かぶ村」があるトンレサップ
はじめまして、こんにちは!Yasuminと申します。ヨーロッパに拠点を置き、旅を続けております。私が旅で遭遇した驚きや、旅する喜びを、皆さんと共有できれば、とても嬉しいです。さて、初めての投稿は、数ヶ月前に訪れたカンボジアでの出来事です。
カンボジアの中央に位置する、トンレサップは、東南アジア最大の湖です。 その中でも、今回は、隣国のベトナム人が多く住むと言われる、コンポンチュナン州の水上村の一角をボートで訪ねてみました。
「ワン・アワー、ショートショート!」
早速、ボートの船頭の女性が声をかけてきました。当初の予定は1時間。しかし彼女は、しきりに「ワン・アワー、ショートショート(1時間じゃ、短かすぎるわよ)」と、繰り返し、2時間コースを勧めるのです。その規模から1時間で十分と思われますが、あまりの熱心さに折れ、最安値ではありませんが、ふたりで2時間6ドルで手を打ちました。
ボートって、コレ?!
岸辺に案内され、私たちを待っていたのは、左の椅子と屋根のついた素敵なボート・・・・でなはく、右。全長3m、幅1m程の、小舟です。風化具合といい、はかなげな作りといい、スリル感たっぷりです。体に妙な力が入ります。
浮き草にすら追い抜かれる……
無事に着席し、いざ、出発です! が、この舟、一向に前進しません。思わず確認した所、船頭のデランさん、舵を取ってしっかり漕いでらっしゃいます。とは言え、分速せいぜい20mと言ったところでしょうか。舟は浮き草にすら追い抜かれます。「ワン・アワー、ショートショート(1時間じゃ、短かすぎるわよ)」って、ことは、もしかして・・・・2時間、ずっとこの速度? 不安がよぎります。
進んだ!と思いきや、また止まった・・・
やっと岸から離れた!と思ったところで、突然、舟が停まりました。おっと、ここは、水上レストランの様です。床に直に座りながら、手際よく、器用に調理されている様子が見えます。と、船頭のデランさん、何か注文され、食べてます。
い、いきなり休憩ですか? 仕事中は奉仕と貢献を・・・と肝に銘じて社会生活を送っている私に「ワン・アワー、ショートショート(1時間じゃ、短かすぎるわよ)」が、再び頭をよぎります。彼女は、確信犯なのでしょうか?
とは言え私も、彼女と同じものを注文。小さなお椀に白くどろどろした液体がかかってます。2000R(60円)。見た目はいまいちですが、かき混ぜてみると、ライスヌードルと共に、中から、ピーナッツや干し海老、不思議な香草がわんさか出てきます。
甘辛酸味が見事に絡み合い、ベトナム料理のセンスの良さが冴える一品です。こんな所でベトナム料理が味わえるなんて、あぁ、幸せ。気を良くし、あっという間に完食した私を気にも留めず、デランさん、なんとコーヒーを追加注文。お友達と雑談に花を咲かせておられます。まさに水上カフェ。なんかすごく楽しそう。な~んて言っていられません。出発してすでに20分は経過しているではありませんか! さて、食べたし、飲んだし、気分の良いうちに、再出発!
湖上の村には「DIY精神」がいっぱい
村の住宅は、イカダの上に簡単な家屋が乗っている様な形式で作られています。どのお宅も、工夫が凝らされています。こちらは、ベランダのお花が素敵です。
リビングでくつろぐ様子は、どこも同じ。ハンモックが吊るされています。ソファーの代わりと言った所でしょう。テレビもありますよ。
ワンコもいます。お散歩はどうしているのでしょう、気になります。
それにしても、水上とは言え、驚く程なんでもあります。このコンポンチュナンの水上村は、この村だけで、減水期には、50戸、増水期には、なんと300から500戸の集落になるそうです。 こちらの売店では、ボートに欠かせないガソリンも売っています。
教会もあります。学校も兼ねているようで、子供達が勉強をしていました。
行商の方がやって来ましたよ。陸の市場から仕入れた野菜や果物が積んであります。
湖上のお寺で予想外の出費
あ、お寺を発見!と、その前で、舟が止まります。住職さんが、私たちを招き入れ、お寺を見せて下さいます。仏様を前に急に信仰心が芽生え、世界の皆さんの平和を心から祈ります。と、この時点で既に満足し、先を急ぎたい私ですが、住職さんが「聖水」を薦めてきました。問題は、私には、ただのペットボトルにしか見えないことです。そんな私だからこそ、色々清めるべきなのですが、旅行中、各国で高額のお布施を吹っかけられた経験が頭をよぎり、断固拒否。ごめんなさい、やはり私は、仏様を前にしても、出費を惜しむ、ただのバックパッカーです・・・。
同行の彼にいたっては、「ほら、飲み物は十分持ってきてるんだよ」と、かばんの中を見せています。どうやら飲むつもりでいたようです。
その後、住職さん、親切なサービスをあれやこれやと続々提供。勧められるがままに、なぜか一緒に合掌写真。仏様を背に、私、めちゃくちゃ笑顔です。
ここまでくると、さすがの私も、幾分かお布施を施さずにいられません。住職さん、なかなか手ごわい。 お布施を渋ったが為に、意外に多くの時間をお寺で費やしてしまいました。気を取り直して、再々出発!
アレ、意外にめちゃめちゃ満喫?!
日も昇り、背中が焼けるように熱いと感じる頃、デランさんが、素敵な傘を貸してくれました。ただの偶然でしょうか、水辺に咲く花々が描かれているではありませんか。心憎い演出です。
相変わらず浮き草のごとく「前進」する舟は、なんだか水上生活に似ています。手漕ぎの舟は、静かで、過不足なく、満ち足りてて、優雅な気分すらしてきます。それにしても、果てしなく広いです、空も湖も。
カンボジア人によきたんぱく源を提供し、生活に欠かせないトレンサップ湖。その面積は、モンスーン期には、最大16000平方kmにも及び、100万人もの水上生活者がいると言うから驚きです。ベトナムからの移民も多く、保障もないままの生活を余儀なくされています。資源豊かな湖は、のどかな風景とは裏腹に、様々な問題を抱え、まさに喜憂混合です。
私は、時間の経過をすっかり忘れ、この先に広がる世界を想像して、遠く遠くを眺め、思いを馳せます。デランさんの言っていた「ワン・アワー、ショートショート(1時間じゃ、短かすぎるわよ)」とは、そんな旅人の旅情を見透かしての事でしょうか。今では、進まずとも、このまましばらく、こうしていたい様な気分です。
急にスピードアップの理由
残り時間が30分を切った所で、なんと、デランさんの舵を取るペースが上がっているではありませんか! デランさん、さすがに、これではまずいと思ったのでしょうか。それとも、親切心から、はるばる遠くからやってきた旅人に、どうしても見せたいものがあったのでしょうか。「私は、十分に楽しでいるので、どうぞお気を使わずに・・・」と、言いたいところですが、デランさんの変貌振りに、この後に及んで、期待は高まります。
すると、あるお宅の前で舟が停まりました。
降りる準備万端で身構えた私が、振り返ると・・・・あれ、いない?
どうやらトイレ休憩だったようです。加速の意味がここで理解できました。
その後、速度はやはり浮き草モードに戻り「フィニッシュ!」の合図で、ボートトリップは、あっけなく終了。総走行距離1.8km。もちろん往復で。
船頭のデランさんの個性にノックアウト
今回のボートトリップでは、船頭のデランさんの個性に、始終ノックアウトされっぱなしでした。彼女は、超マイペースですし、英語もほんの片言ですが、その分、押し付けがましさがなく、旅人のセンチメンタルな旅情の邪魔しない点に、むしろかなりの高得点を差し上げたい。乗り降りの際に細心の注意を払ってくれるプロフェッショナルな一面もございます。
「ワン・アワー、ショートショート」は本当だった
水上村には、驚くほど何でもありました。その景色といい、その家屋の造りといい、見所満載です。また、そこには、予想を裏切る「至って普通」の日常風景が、ゆったりとした時間の流れと共に、どこまでも広がっておりました。
ボートトリップ中、浮き草のごとく、私の頭に浮かんでは消えていった、冒頭の「ワン・アワー、ショートショート(1時間じゃ、短かすぎるわよ)」ですが、2時間を経て、私は、その意味を思い知らされるに至りました。だって、これ「ワン・アワー」じゃ、あまりに「ショートショート」過ぎです。デランさん、恐れ入りました!
文・写真:Yasumin
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