ヒマラヤにて世界一標高が高いという温泉に向かう途中で目にしたのは、広大な山岳風景をはじめ、過酷な道路工事の現場など下界ではありえない光景の数々でした。
おばんどーです。昨年、インドのシッキムでヒマラヤトレッキングをした時のことです。
シッキム州は東はブータン、西はネパール、北は中国チベット自治区に囲まれたインドで2番目に小さな州です。北にはヒマラヤ山脈を有し、標高280mから標高8586mと尋常ではない高低差を誇ります。
より大きな地図で シッキム・Yumesamdong を表示
北シッキムのヒマラヤトレッキングルートの起点・Yumesamdongに世界一標高が高い温泉があるという情報を聞きつけ、居ても立ってもいられなくなり行ってみることにしました。青がスタート地点のLachung、ピンクがYumesamdong、約30kmの行程。
より大きな地図で シッキム・Yumesamdong を表示
Lachung(2400m)で迎えた朝。
ヒマラヤの頂きが太陽の光を遮り、神秘的な夜明けを迎えました。
遠くの山の斜面にはチベット仏教の白い幟、タルシンが揺れています。
Yumesamdongへ向かう道路は土砂崩れで埋まっていましたが、僕を乗せた車はその上を乗り越えて行きました。
土砂崩れを何度も見ていると、どうしても山頂が気になる。いつ自分に天災が降り掛かるのかと不安になってしまいます。
悪路を乗り越え車で約1時間、Yumthang(約3500m)に到着。
Yumthangを眼下に一気に標高を上げると、景色は絶景にかわります。
つづら折りの坂道を進むこと、数十分。草木は高山植物に変わり、風景も一気に変わりました。空の青さがどんどん濃くなって行く様は宇宙へ向かっているような感覚でした。
すでに富士山山頂を超える標高ですが、なんと、この地に住んでいる人々がいます。
ドラム缶で作った質素な住居。
肌は紫外線で小麦色にやけています。
遊び相手が大自然というたくましい子供達。
少年が口に入れているものは凍った沢の氷。
住居周辺の水は凍っていますが、日差しは強くそこまで寒くないという不思議な感覚でした。
住居周辺にチベット仏教の旗・タルシンが立っています。
少し行くと、道路工事の現場に遭遇。
標高はさらに上がります。下に見える建物は、チベット族が夏場限定で放牧の際使う小屋とのことです。
Yumesamdong到着直前、インド軍の鉄筋コンクリート製の防御陣地ありました。かつて、シッキム州はインドと中国が領有権争いをした地域です。ここから中国国境まではわずか25kmと近く、インド軍は中国軍の侵略に警戒しているようですが特に緊迫した様子はありませんでした。
出発から約4時間、Yumesamdong(4800m)に到着。 抜けるような青空、強い日差しとは裏腹に凍てつく寒さ。
道ばたに商店があり、強いアルコールが置いてありました。しかし、短時間で標高約2000mを登り、高度順応が出来ていないことを考えアルコールは控えました。
温泉はYumesamdongの西の谷間に湧いているらしいのですが、空と山以外何もありません。とにかく行ってみます。
上ってきた道を振り返る。険しい道が恐怖をあおります。
歩き始めて20分、とうとう着きました。石に囲まれた水たまりから湯気が上がっています。地元ガイドもほとんど知らない温泉だそうです。
源泉はここ。チベット人だけが通う温泉の効能は全身の関節、主に膝関節に良いらしい。
チベット人によると、ここに約2週間留まり湯治をするという風習があるそうです。
周囲には、抜けるような青、そして身を切るような冷たい風が吹いています。
湯につかると、いい湯加減。身体の芯から温まります。チベット仏教の旗・タルチョが風になびき、いい湯だなーと雰囲気に浸っていると……
突如気分が悪くなってきました。両手足の指先がしびれ、高山病という言葉が頭をよぎります。急いで湯船から上がり、服を着ましたが、冷たく乾いた風が汗を一瞬でぬぐい去り、僕は体を拭く必要がありませんでした。
文・写真:おばんどー
世界新聞の最新情報をゲット
RANKING