イスラム教徒の恋愛といえば、婚前交渉の禁止、一夫多妻制というイメージがありますが、青年海外協力隊でシリアに滞在したぼくが実際のところを「普通のシリア人」たちに聞いてきました。
アッサラームアライクム(アラビア語でこんにちは)〜。連載で「世界の恋愛」について書かかせてもらうことになったへむりです。
前回は自分の恋愛話でしたが(参考:ガーナにいる彼女と1年以上「遠距離」している僕が心がけている5つのこと)、今回は、シリアでの青年海外協力隊時代(下写真)に、イスラム教の現地人に聞いた恋愛・結婚事情をお届けします。
家の前で談笑しているおじいちゃん。こういった「普通の人達」に聞いたイメージです。
シリアってどんな国?
シリアは、北はトルコ、東はイラク、西はレバノンと地中海、南はヨルダンに囲まれた中東の国です。現在騒乱の中にあり、ニュースを通して「危険」なイメージを持たれるかもしれません。しかしシリアは元々、旅人の中では現地人の優しさや、砂漠の遺跡パルミラなど観光資源が豊富なことから、評判の国。ちなみにシリアは、帰国した協力隊の人気No.1でした。
1.親が決めた相手と結婚するってホント?
A:田舎では多いです。
「私は恋愛できないの」
シリアの村の少女が、恋愛ドラマを見ながら僕に語りました。親が決めた相手とするからね、シリアでは、恋愛ドラマが人気です。どんな気持ちで見ているんだろう、と心が苦しくなりました。その女の子が、可愛かったせいでは無いはずです。めっちゃ可愛かったけど笑。
しかし、こういうことは今では稀のようです。都会では特に、大学での自由恋愛もありますし、手を繋いでいるカップルの姿を見ることも多くありました。
ただし田舎では、親戚同士の結婚が多いのは確かです。これは「どんな人間かがよく分かっているので、家庭内暴力のような結婚後のリスクを避けるためだ」とのことです。また、親戚同士の集まりの中、「私、あの男の人がタイプ!お父さん、ちょっと声かけておいて!」なんて言う人もいるとか。男性も同様で、気に入った相手がいたら、結婚に向けて家族を通したアプローチをするそうなのですが、女性側が「あの人は嫌よ」と断ることもできます。
とはいえ村で、おじいちゃんおばあちゃんが手をつないで歩いているのも見ました。時代的には、親が決めた結婚だったと思うのですが、キッカケは何であれ、愛を育むことはできるんだろうなって思いました。
2. 結婚するまでSEXはしないってホント?
A:原則しませんが…
だから、SEXがしたかったら結婚しなければならないのですが、結婚するためには、 新居の準備と結婚式にかかる費用となる「マハル」と呼ばれる結婚準備金を、花婿側が準備しなければいけません。これが年収の数倍(公務員の月収が2,3万円のなか、マハルが100万円を超えることも)なので、並大抵の努力では貯められません。男たちは、外国に出稼ぎに行ったり、起業したり、副業したり、一生懸命がんばります(親に援助してもらってる人もいるようです)。
SEXはしませんと言いましたが、男性側はこっそりとやってるぞ、という話をチラホラと。相手は地元の人ではなく、外国人の娼婦か、旅行客のようです。
そんなわけで、イスラム圏を旅する女性の旅人は「チャンス」だと思われています(外国人は結婚する前にSEXをしているという「実績」があるため)。チャンスと思わせない格好と態度に気をつけてください。
僕にも、ある事件が起きました。港町にバスで向かう途中、窓から外を眺めていた時のことです。港町は、僕の住む場所と違って肌の露出が多い地域です(イスラム教にも色んな宗派があり、地域によっても差があるのです)。気がつけば、窓の外にいたロングスカートを履いたおばあちゃんの肌色のくるぶしを思わず、じーっと目で追ってしまったです。
そして、ハッと冷静になり、男の本能に戦慄しました。普段、肌を見せずに生活している地域の人たちの気持ちが瞬間的に理解できました。「イスラム圏に行ったらガン見される」という女性の皆さんに「仕方ないんだ、あれは本能なんだ」と言いたい気持ちに駆られました。
結婚式では羊肉とパンとヨーグルトが定番。友達に呼ばれた見知らぬ人の結婚式にて
3. 離婚はできるの?
A:できますが、養育費は…
実際、僕がお世話になっていた家族の従兄弟が、「夫がろくに働かず、生活がだらしない」という女性側の訴えで離婚しました。ちなみに、シリアでは離婚後に発生する子どもの養育費などは、結婚する時点で決めます。成人するまで支払うことが、男性側に義務付けられています。結婚は契約だという考えです。
ちょっとドライじゃない?と思う人もいるかと思いますが、「あらからじめリスクを知っておくこと」も、離婚を防ぐひとつの方法なのかもしれません。
結婚式にて。花婿のところへ向かう花嫁を見送るため近所から人が集まる
4.一夫多妻ってどう思う?
A:いろいろな側面があるので、一概には言えません。
「んー、やっぱり寂しいわ」という女性の意見もあります。一方、「嬉しいわよ」という声も聞きました。「皆、仲良しだしね」と。
ただ先ほど説明したように、結婚には多額のお金が要ります。なので、今では2人以上の妻がいる人はすごく少ないです。「平等に愛さねばならない」という決まりがあり、家や贈り物、一緒にいる時間も、平等でないといけません。というのもあって、一夫多妻は難しいのが現実です。
そもそも、どうして一夫多妻制が生まれたのか、というのには歴史的な背景があると教えてもらいました。
イスラム教が生まれる以前、一夫多妻というのは常識であり、かつ、何人と結婚してもいい無法状態でした。そこで「4人まで」と制限したのがイスラム教です。当時は戦争も多く、戦死した兵士の妻は未亡人となります。そうした未亡人たちが生活に困らないように、金銭に余裕のある男性が、結婚という形で女性を養う仕組みだったのです。また、結婚後に「子どもを産めない」「体が弱い」といった理由で離婚になることを避ける、という意味もあったそうです。
このように、実は「女性を守る」ためにあるのが、一夫多妻制だ、という見方もあるのです。
村中の老若男女が集まって結婚を祝う様子
5.どうしてそんなにたくさん子どもをつくるの?
A:生き残るため
シリアの村落部では、10人兄弟は珍しくありませんでした(都市部では2~3人が多い)。
「子どもが可愛いからだ」と言う人も居ましたが、実は深い理由もありました。
「君たちの国には、年金というものがあるだろう?私たちにはそれがない。だから、自分が年老いた時に、息子たちに養ってもらうんだよ。親は責任を持って子どもを育てて、老後は子ども達が親を養うんだ。娘たちは嫁いで他の土地に行ってしまう。だから、男の子が欲しい。一緒に住めるからな。でも、事故や病気で死んでしまうことも有り得るだろう?だから、なるべく多くの息子が欲しいんだよ」
「戦争になった時、わしらには武器がない。アメリカが攻めてくることも考えられる。わしらの武器じゃ歯が立たんだろ。だから人口が必要なんじゃ」という人も居ました。
「無知だから」「無計画だから」子どもが多いわけでは決してなく、生存のための合理的な判断のもとに、子だくさんという選択をしているのです。
日本にいるとなかなか聞けないイスラームの恋と結婚事情、いかがだったでしょうか?
こうした「普通の人たちの話」から「そこに生きている人たちもまた、僕らと変わらない日常を生き、恋愛をし、家族を愛し、笑い、泣くんだ」って知ってもらえたら幸いです。良い旅を、良い恋愛を!
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