旅をしていれば、楽しいことばかりではありません。ホテルでひとり、枕を濡らす夜もあるでしょう。辛い過去はすべて、ガンジスが流してくれる、というお話です。
旅にトラブルは付き物……だけど多過ぎる!
こんにちは!極貧バックパッカー植竹智裕(うえたけともひろ)です。世界一周中の僕は現在この辺りにいます。
僕は9月15日から22日までインドのヴァラナシ(ワーラーナシー、ベナレスとも呼ばれる。本文ではヴァラナシと表記します)という街に滞在していました。
ヴァラナシとは?
「ウッタル・プラデーシュ州に属するワーラーナシー県の県都。ガンガー(ガンジス川)沿いに位置し、ヒンドゥー教・仏教の聖地として重要な都市」Wikipediaより引用
インドに入ってからも今までと同様、街を散策してみたり、食べた事が無い料理に挑戦したりと、それなりに充実した日々を送っていましたが……どうも楽しめていませんでした。
その理由はインド入国直前、バングラデシュにて一緒に写真を撮った青年にiPhoneを引ったくられた事です。それだけではなく、僕は世界一周開始から4ヶ月で色々な物を失いました。失ったものは以下の通り。
iPhone5S(盗難)
5万円分相当のUSドル(盗難)
クレジットカード(紛失or盗難)
洗濯上がりの衣類(紛失)
その他にも、自分の要領が悪かったり、知識が足りず、タイで貰えるはずだった2台目のiPhoneの税金を受け取れなかったり、バングラデシュでは旅行保険申請に必要な被害証明書をメールで送ってくれると言っていた警察官から返信が途絶えたりと、思い出しただけで落ち込んでしまう出来事ばかり。少しでも心の平穏を取り戻そうと訪れたブッダガヤ(釈迦が悟りを開いた聖地)ではまさかのデジカメ故障……相次ぐトラブルに平穏どころか心は揺れる一方、泣きっ面に蜂とはこの事です。
そんなトラブルが多過ぎて、自己嫌悪、先の経済的な不安が襲って来ては塞ぎ込んでしまう日もしばしば。僕は笑えません。
そうだ、厄払いに行こう
確かに僕自身に隙があったから起きてしまったのは事実ですが、このトラブルの多さは尋常ではありません。何か罰当たりな事でもしたというのでしょうか?思い返してみると仏教寺院やモスクに行っても「見飽きた」と思ったり、写真だけ撮って出て来てしまったりと、思い当たる節が多々……とにかく!今後また同じようなトラブルに見舞われてしまったら、それこそ世界一周存続の危機です。それだけは何としてでも食い止めなければなりません。そして、何よりも問題なのは旅を楽しみ切れていないという事。
どうにか気持ちを切り替えて、旅を始めた当初のように希望だけを抱いて再び楽しみたい!その為には……
厄払い!それしかありません!
朗報!ガンジス川の沐浴には清めの御利益あり
早速、インドの厄払いについて調べた僕が目を付けたのがガンジス川の沐浴です。
ガンジス川とは?
「インド北部を流れる大河。川沿いには数多くのヒンドゥー教の聖地があり、ガンジス川そのものも聖なる川とみなされる。死者をその川岸で火葬に付し、灰をこの川に流すことは死者に対する最大の敬意とされる。子供、妊婦、疫病死の場合はそのまま水葬される」Wikipediaより引用
更にWikipediaによると、沐浴には「川、海、泉など、聖なる場所に身体を置くこと(沐浴すること)で、けがれを取り除く」という意味があるそうです。果たしてこの”けがれ”に日本でいう”厄”が含まれるのかはわかりませんが、僕にはこの行為に全てを託す以外、道はありませんでした。
ガンジス川には危険もいっぱい
しかし、ガンジス川で沐浴をするにあたっては問題もありました。Wikipediaには「信者以外の観光客が沐浴を行うことは避けるべきである。 ガンジス川には近隣の下水が流しこまれているため、地元の人間と違って免疫のない人がガンジス川の水に浸かったり飲用したりすれば多種多様な感染症に罹病する危険が大きい。2007年には世界で最も汚染された5つの河川に選ばれた」と書かれています……。
実際、ガンジス川には火葬場(中央の火が見えますか?)もあり、遺灰やそのまま流された人間や家畜の死体、糞尿、生活用水などが垂れ流し状態で決して綺麗とは言えません(犬の死体が漂っているのを目撃しました)。
僕が出会った旅人の話でも、
「ガンジス川で泳いだら下痢と嘔吐が同時に襲ってきた」
「体中の毛穴から水分が吹き出して脱水症状になった」
「あんな汚いところ絶対に入りたくない」
「日本人が入ると50%の人が体調を崩すらしい」
などと悪い噂が絶えません。
しかし、僕にとって、今までの厄を洗い流すには他にすがる物がありません……。
早速、翌日ガンジス川で沐浴をする事にしました。するとその日の晩に喉が痛み始め、熱っぽくなってしまいました。これはまずい!このままでは最後の砦である健康まで奪われてしまう!事態は一刻を争います。
ガネーシャとはヒンドゥー教の神様の名前で、ガートとは沐浴場という意味です。ガネーシャは「障害を取り去り、また財産をもたらすと言われる」(Wikipediaより引用)のだそうです。まさに今の僕の求めている御利益にぴったり!こちらがガネーシャです。象の顔が特徴的なので見た事がある方も多いのでは?
水際はこんな感じです。他のガートに比べて人も少ないので安心して沐浴に集中できそうです。
ヴァラナシの中でも下流の方にあるので、上で書いたようなあまり見たくないもの・触れたくないものが全部流れて来る可能性があるガネーシャ・ガート。どうせなら厄を洗い流すだけではなく、それら全て受け止めてトラブルに負けない男になりたい!
厄払い開始!
まずは水質チェック。ガートは階段状になっていますが、茶色に濁っていて一段下も見えない状態です。浮遊物は少なく、発泡スチロールの塊ひとつだけでした。
まずは足から。虫刺されを掻きむしったせいで傷が多いので、細菌の突破口にならないか心配ですが、悩んでいる時間はありません……って、なんかヌルヌルしてる!!!
正体はねずみ色の泥でした。この泥だって元々はそこら辺を闊歩している牛の糞かも知れません。自然と表情が歪みます。
肩まで厄払い完了。幼い頃、湯船で百まで数えた思い出が走馬灯のように蘇りました。
驚くべき事に、既にこの時点で言い得ぬ達成感を感じて、過去のトラブルはどうでもよくなっていました。足元のヌルヌルは気になりますが、泳ぐ余裕も生まれ、
ついでにインド人がそうしているように、僕も持って来た石鹸を使ってガンジス川で体を洗ってみました。
そして再び潜水して、厄だけではなく体の汚れもガンジスに流します。この時、不覚にも少し水を口に含んでしまい、少し甘みを感じました。石鹸の味だったのでしょうか……そう願っています。
身も心もスッキリしました。この時の僕からは石鹸の香りとすがすがしさしか漂っていなかったはずです。
その後の体調・心境の変化
沐浴から3日程は少し怯えていましたが、幸いにも前日から崩していた体調も快方に向かい、下痢や吐き気に悩まされる事もありませんでした。そして、一番大きな変化は、沐浴を達成した事で自分の中で何かが吹っ切れた事です。
「自分が愛用した品々が今、世界のどこかで流通している。なんてロマン溢れる事なんだろう」
「起きてしまった事は仕方ない。これからは今の倍くらい気を付けよう」
そのぐらい前向きに考えられるようになり、その後の旅では前よりも笑っている時間が増えたように思います。
仕切り直しの行為が大事
今回、僕は厄払いという意味を持たせて沐浴をした事でだいぶ気持ちが楽になりました。果たして御利益なのかどうかはわかりませんが、失恋をして髪をばっさり切る人がいるように、周りで不幸があったら塩をまいて清めるように、何かアクションを起こす事が、効果的な過去との決別方法なのかも知れません。
旅先では何事にも注意する事が一番ですが、それでもトラブルは起こってしまうものです。もしも立ち直れない出来事に直面した時は、頭で考えるだけでなく、何か行動に移してみて下さい。悩んでいたのが嘘のように驚くほど簡単に乗り越えられてしまうかも?
※この記事は決してガンジス川での沐浴を推奨するもの、安全性を保障するものではありません。沐浴される方はくれぐれも体調にご注意下さい。
文・写真:植竹智裕
HP:週刊!植竹智裕の気ままに世界探検ブログ
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