旅に長距離移動はつきものですが、47時間、総走行距離2816キロを列車に揺られ、インドをほぼ縦断した時の一部始終です。
弾丸移動をするハメになった理由
こんにちは!極貧バックパッカー植竹智裕(うえたけともひろ)です。世界一周中の僕は現在この辺りにいます。
僕は8月27日から10月9日までインドを旅しました。僕のインドビザの期限は10月9日。インド滞在のフィナーレが近づく10月4日、僕はニューデリー駅で憂鬱な表情を浮かべながら列車が出るのを待っていました。僕が乗ったのはKERALA EXPRESSという列車。
目指すはインド南部にあるコーチン(コーチ)という都市です。ほぼ、インドを縦断するルートとなっております。
そして、午前11時25分、定刻通りに首都ニューデリーを発車した列車は2日後の10月6日午前9時40分にコーチン到着予定、47時間の鉄道の旅です。
ではなぜ、ビザ期限直前に弾丸でインドを縦断することになってしまったのでしょうか?
それは一円でも安く日本に帰る為です。今までの旅でスマートフォンやクレジットカードを失うという憂き目に遭い(参考:iPhone5を盗まれたので、ガンジス川で厄払いをしてきた)、一度日本に帰国して態勢を整える事にしたものの、Skyscannerによると10月9日前後のデリーから東京までの航空費は43000円でした。
対して、(目的地である)コーチン国際空港にはあのエアアジアが就航しています。こちらを使えばマレーシア経由で名古屋まで諸費用込みでなんと24000円!名古屋から東京までも安い交通手段を探せば2000円程度で収まる事が分かりました。
残すはいかに安くインド北部のデリーからコーチンまで南下するか……。そこで見つけたのがこのKERALA EXPRESSでした。僕が選んだのはSLクラス(SLEEPER CLASS)という、寝台の中では最も安いクラスの車両です。所要時間47時間・総走行距離2816キロ(参考:インド鉄道HP)の道のりがなんとたったの885ルピー(約1562円)!47時間も列車に揺られ続けるのはしんどいですが……貧乏バックパッカーの僕に贅沢を言っている余裕はありません。
SLクラスとは
ここで少しだけ、僕が乗ったSLクラスについてご紹介します。車内はエアコン無しで扇風機が回っているのみですが、エアコンだと冷房が効き過ぎて寒い場合が多いので、扇風機だけでも特に居心地の悪さは感じませんでした。
座席はこのようになっています。日中は1段目の寝台は座席に、2段目の寝台は畳んで背もたれになります。3段目は固定されたままなのである意味特等席と言えるでしょう。
3週間前に外国人旅行者枠で予約した為、僕にはこの特等席が割り当てられました。荷物がスペースの半分くらいを占めてしまうのでなかなか窮屈です……。また、常に居場所が確保できる反面、3段目からは窓の景色が見えません。
トイレに行く際に乗車口から飛び込んでくる景色と、たまに乗客が居なくなった隙に1段目に移って窓から見る景色が僕が知り得る唯一の外の情報でした。
無我の境地へ
さて、いよいよ始まった47時間の鉄道の旅ですが、長時間何をして時間を潰していたのでしょうか?ズバリ……
「何もしていない」時間が圧倒的に多かったです。
不特定多数の前でパソコンを出すのはデメリットが大きく、本を読もうにも持っていたのは中央アジアとアフリカのガイドブック、そして旅行保険の約款くらいで、まるで読む気になれません。話し相手でも見つければ楽しむ事も出来たのかも知れませんが、トラブル続きであまり人と関わる気になれなかった僕に残された時間潰しの手段が音楽でしたが、それも47時間続くと、まるで魂を抜かれたように天井を見つめるだけの状態に陥ってしまいました。
荷物が半分近くスペースを占める窮屈な寝台で時々、どんな体勢が一番楽かを真剣に研究してみるのが唯一体を動かす時間潰しでした。
真剣に研究した結果、導き出された最も楽なポーズがこちらです。そして再びやる事は無くなりました。
昼夜問わず寝起きを繰り返すうちに段々と体を起こす気力も、ミュージックプレイヤーをバッグから出す気力も失せてしまいました。何も考えずに天井の白を見つめるだけの時間が何時間過ぎた事でしょうか。時計も持っていないので時間すら分かりません。不思議なもので、仏教の聖地ブッダガヤで瞑想してみた時よりも、坐禅体験をした時よりも遥かに時空を超えた無我の境地に近づけていた気がします。人が無心になれる場所や環境はお寺や一人の静かな場所とは限らないんですね。
たまに来る物売りが密かな楽しみ
そんな無気力な僕にもささやかな楽しみができました。それは車内販売です。時々、制服を着た乗務員が飲み物やスナック、弁当を売りに回ってきます。最初は高そうなイメージを抱いていたのと、足早に通り過ぎる乗務員を呼び止める気力が無かったので、デリーのファーストフード店でたくさん貰ったケチャップをすすってみたり、
デリーで知り合った日本人の友人から貰った梅がゆをすすって久々に食べる梅干しの味を噛みしめたりしていたのですが、
それらも尽きて、いよいよお腹が空いたという時に、思い切って買った弁当がこちら。中身はビリヤニでした。数種類のスパイスで味付けされたインド風ピラフといったところでしょうか。お値段は70ルピー(約124円)で高くも安くも無いという印象です。
他にも駅で停車する度に、外部から装飾品や腕時計、絵画などを抱えた商人が乗って来て商売を始めるので、それを見るのが数少ない楽しみになりました。中には下の写真のように楽器を鳴らしながら歌を歌ってお金を乞う物乞いもいました。
写真には収められませんでしたが、少女が狭い通路を連続で側転した後、ドヤ顔でおひねりを回収する姿は圧巻でした。こうして時々やってくる物売りや展開されるショーを見る事が僕にとって唯一、自分がインドを旅している事を思い出させてくれる出来事でした。そして彼らが去った後は再び天井を見つめる時間です。
現実への帰還
人間って恐ろしいもので一度気力を失ってしまうとなかなか元の状態には戻れないものです。3日目にもなると、「この時間がずっと続けば楽なのに……」とまで思うようになってしまいました。しかし、いつまでもこうしている訳にはいきません。この日の午前9時40分には目的地に到着する予定だったので降りる支度を開始し、1時間前から駅に停車する度に駅の名前を確かめましたが、知らない駅名ばかりで自分が今どこにいるのか、列車は定刻通り動いているのか、あとどのくらいで着くのか、それら全てがわからない状況でした。
寝台に別れを告げて、車両の連結部分に荷物を移し、乗車口で待機する事にしました。
すると僕の心配をよそに、列車はなんと定刻通りに目的地のコーチンにあるエルナクラム・ジャンクション駅に到着。「いっその事遅れてくれればまだしばらく寝てられたのになぁ」と、そう思ってしまった自分が恐ろしい……。
旅に娯楽は必要
「47時間も鉄道に乗ったら果たしてどうなってしまんだろう?」「何して時間潰そう……?」そんな不安の先に待っていたのは、決して楽しくもなく、かといって居心地も悪くない無気力状態でした。時間や場所の概念も無かったので長く感じる事もありませんでした。ですが、これから鉄道で長時間の移動を考えている方は僕のように旅の最中に無気力状態に陥らない為にも、是非、時間潰しに使えるグッズを用意する事をおすすめします。もしくは、僕のようにただ天井を見つめ、無心になるというのも一つの楽しみ方なのかも知れませんが……その後の旅にも影響を及ぼしかねないのであまりおすすめはできません。
文・写真:植竹智裕
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