以前、『世界新聞は台湾を3日で111km走る「SUPER RACE」に参戦します』や準備編の『マラソン経験ナシの僕が、「台湾111kmマラソン」を走ることになった話』で旅するライターのYUMAが台湾のサバイバルマラソンに参戦することをお伝えしましたが、今回はいよいよ本番です。マラソン経験ナシ、一般男性の無謀なチャレンジをお楽しみください。
皆さんこんにちは!マラソン10kmしか経験がないのに、勢いで111kmサバイバルマラソンにエントリーしてしまった浜吉勇馬です。2014年3月28日から3日間、台湾の南端で行われたSuperRaceに参加してきたので、その模様をお届けします。
SuperRaceとは?
ウルトラランナー&冒険家のKevin Linが主催するサバイバルマラソン。台南の大自然の中を3日で111km走り抜けます。詳細はこちら
111人の寄せ書きを乗せて
僕は、これまで50か国以上の国を回ってきました。その中で思ったことは、用意された景色よりも、自分で勝ち取った景色のほうが美しかったということです。1人で見た景色よりも、多くの人と共に見た景色のほうが素晴らしかった。今回のレースも、多くの人の想いを乗せて走れば、より素晴らしい景色が見られるはずと思いました。
という訳で……111kmにかけて日の丸に寄せ書きを111人に書いてもらいました。何故日の丸かというと、エントリーした日本人は僕一人だからです。こんな僕でも日本代表!?なのです。
準備期間は1か月のみ
サバイバルマラソン(ウルトラマラソンとも呼ばれる)に出場するには、それなりの準備が必要とされています。マラソン経験のない私が、111kmのウルトラマラソンに出ること自体が無謀なことでした。しかも準備期間はたったの1ヶ月……。
練習を始めてから身体が痛くない日は無かったです。ただ、不安で、不安でした。不安を少しでも和らげるために、走り続けるしかなかったのです。世界新聞に取り上げて頂いたり、SNSで豪語してみたりと、自分をどんどん追い込んでいくことで、どうにか苦しいトレーニングを乗り切ることが出来ました。そして、多くの人に応援してもらったことでやっと台湾の地に立つことが出来ました。
想定外の暑さ
レース前日、台湾第二の都市・高雄からバスで約3時間かけて台湾最南端の街、墾丁へ移動。ホステルにチェックインを済ませて、エントリー会場へ向かいました。
日本の3月の気候と違い、台湾は30度を超える真夏日で、何もしていなくても汗が噴き出してきます。暑い中でのトレーニングは全くできていなかったので、この暑さとどう戦うかも111km攻略の鍵になりそうです。
ドキドキ荷物チェック
テントと水以外を自分で運ぶサバイバルレースは細かく荷物規定がされていて、違反があるとペナルティが科せられる。という仕組みになっています。
一番ドキドキした荷物チェックは、紙にチェックマークを入れるだけで、あっけなく終了しました。そして、医師のメディカルチェック、中国語で書かれたシートに既往歴や生活習慣についての確認がありましたが、事前に単語を理解していたので問題なくクリアしました。ほっと一安心です。
主催者から発表された参加選手は32名。台湾、USA、ロシア、フランス、香港、韓国、日本の全7か国から参加者が集まったとのことです。
111km→132km!まさかの距離変更
そして驚愕のアナウンスが……なんと、111km→132kmの距離の変更が告げられたのでした。海外レースではよくある事みたいですが……想定外です。
いよいよレース当日
1日目 50kmスタート!
現地の天候は曇り、気温は25度。6:30、大漢林道(標高600m)をスタート!
チェックポイント1(標高1600m)までの16.5kmは路面状態の悪い舗装道をひたすら駆け上がります。
上り坂の上、足もとも滑りやすく、テント以外のすべての荷物を背負って走る身には厳しい……。台湾人の選手とデットヒート!じゃれている訳ではありません(笑)
チェックポイント1に到着。ここからチェックポイント2までの16.5kmは、浸水營古道といわれる500年の歴史を持つトレイルコースを駆け下ります。
休憩ついでに各所で撮影(もちろん自撮り)します。前半の上りで圧倒的な差をつけたことにより、誰にも会いません。
チェックポイント2では行動食と水分を補給。フランス人(緑)とはゴールまでデットヒートを繰り広げることになりました。
チェックポイント2から初日の野営地・達仁南田までの17kmは河川敷の河原を走り抜け、川を乗り越えることもありました。
1日目50km完走!
途中、雨が振ってきて、衣類やバックパックが濡れて重量増加、走り疲れた身体にはぐっと堪えました。それでも、太平洋に向かっていくつかの丘を越えていきます。海岸線沿いにたどり着いた頃に雨はやみましたが、海から吹きつける風に心を削られます。どんより雲に覆われた海岸線を8km走って1日目の50kmを完走することが出来ました。
1日目データ
Total 50km
Time 7:23:00 ( 6:30am → 13:53pm )
UP 2353m ( Max 1600m )
Down 2962m ( Min 10m )
1日目を終え、テントを張りリラックス。ボランティアスタッフに手伝ってもらってストレッチを入念にし、ボディケアをしました。主催者側からは寝る場所とお湯のみが提供されます。
ご飯はカップラーメンの汁にアルファ米とナッツとビーフジャーキーを入れたごちゃ混ぜおじや。
このテントはアメリカ人、フランス人、ロシア人の3人が一緒に寝ることになったようです。みんなで談笑中。
夜、2日目の72kmのコース概要とチェックポイントの場所を確認しました。天気は不安定とのこと。
2日目 72km
時間ぎりぎりに全員が集まり、朝5時に達仁南田(標高10m)をスタートしました。
チックポイント1(標高500m)までの14kmは暗闇の中ヘッドライトをつけて走ります。道のりは延々と登坂でした。
チェックポイント1からチェックポイント2(標高300m)までの10kmは、両サイドを樹木に覆われる道のりで湿度が高く、霧の中を走るような感覚で下り坂を下っていきます。
CP2からCP3(標高10m)までの10kmも同じく下り坂が続いていました。天候は徐々に回復傾向で蒸し暑さが時間とともに上がっていきます。
立ち寄った小さな街には至る所に歴史を伝えるウォールペイントが施されていました
チェックポイント3からチェックポイント4(標高5m)までの10kmは、天候も回復し、美しい海と青空がお出迎え。
久しぶりに他の選手に会いました。初日に登り坂でデットヒートを繰り広げた台湾人ランナー
この海岸線沿いは軍事重要エリアであり10年前まで立入禁止エリアであったそうです。そして、今なお多くの軍事施設を残していました。
道のりはダイナミックに変化
チェックポイント4(44km地点)でストレッチ。ここまで約4時間30分。チェックポイント4からチェックポイント5(標高200m)は、海際の砂漠(九鵬沙漠)を走り、河を渡り小さな村を経て登りへ。道のりはダイナミックに変化しました。
靴の中は、砂交じり、河でビショビショになり、最悪のコンディションでした。長閑な農村を越えると登りステージが待ち構えていました。
足が動かない!
チェックポイント5(54km地点)にて徐々に痛み始めた足を入念にストレッチ。
50kmを超えてから徐々に私を襲ってきたのは、今まで経験したことのない痛みでした。60kmを超えてからは、さらに痛みが強くなり、右足ふくらはぎ、両膝、左足の付け根とその箇所が増えて行きました。深呼吸をしようと思ってもうまく出来ず、道路脇にバックパックを下してストレッチをしてはまた歩きます。そして、ついに64km地点(チェックポイント6まであと1km、ゴールまで9km地点)で痛みに耐えきれず、道路の隅に立ち止ります。
チェックポイント6ではボランティアスタッフに手伝ってもらってストレッチしますが、経験したことのない痛みに悶絶……しばらくその場を動けませんでした。
20分くらいストレッチを続けていると、アメリカ人(右)にも追いつかれ、やせ我慢、焦ってチェックポイントを飛び出しました。
チェックポイント6から野営地の佳樂水(標高5m)までの残り8kmの道のりは、脚の痛みとの戦いでした。
動かなくなった脚を動かしてくれたもの
それは、多くの方から頂いた応援でした。ひとりで走っていると、皆さんのアドバイスが頭の中に浮かび上がってきました。ラスト数キロが辛くて辛くて……。寄せ書きが書かれた日の丸を広げ、一人一人のメッセージを読みながらなぜか私はひとり嗚咽を漏らしました。通り過ぎる車や原付に乗った現地の人がクラクションやガッツポーズを送ってくれました。日本語で「頑張れ!」などと声をかけてくれる人もいました。多くの人に支えられて……
2日目データ
Total 72km
Time 12:12:02 ( 5:00am → 17:12pm )
UP 1600m ( Max 500m )
Down 1568m ( Min 5m )
シャワーを浴びて、衣類を軽く洗濯をして、入念にアイシングとマッサージを行います。
実は、スタートから16時間経過しても未だゴールしてない選手が3分の1……。みんなで選手達を待ちます。
21時から3日目のコース説明が始まったが、3分の1の選手はまだ戻らず。野営地の佳樂水は海沿いの場所で、星空がとてもきれいな場所でした。
3日目 11kmスタート!
7:15に佳樂水をスタートし、墾丁までの11kmの道のりです。
初日、2日目同様、前半から勢いで乗り切ろうと、足の痛みに劇を入れて走り出しました。しかし、身体を誤魔化すことはもう出来なくなっていました。スタートから3km走ったところで集団からは取り残され、前にも後ろにも人影を見つけることは出来なくなりました。
ひとり海岸線の丘を一歩一歩登っていくと美しい景色が広がっていました。
一眼レフを取り出して痛みを忘れて写真を撮っていると、後続ランナーが追い付いてきました。
彼らと一緒に写真を撮り、お互い走れなくなった足で一歩一歩ゴールへと足を動かしていきます。激痛の中、歩き続けることが出来たのは、彼らの存在があったからです。
最終日のコースは台湾の国立公園の中に潜り込み、樹木が生い茂るジャングルへと進みます。
最終日の13kmを2時間29分かけてゴールすることが出来ました。
3日目データ
Total 11km(実際には13km)
Time 02:29:28 ( 7:15am → 9:44am )
UP 387m ( Max 100m )
Down 404m ( Min 2m )
レースを終えて……
今回のレースのテーマは「完走」そして「みんなの想いを乗せて走る」というものでした。この記事でレースの雰囲気や、台湾の美しい景色を読者の皆さんにお伝えするために、重たい1眼レフや三脚を担いで走りました。周りの選手や運営からは、非難轟々でしたが(笑)。
一歩一歩自分で勝ち取った景色は、やはり美しかったです。そして、多くの人と共に見た景色はさらに素晴らしいと思いました。謝謝。
文・写真:浜吉勇馬
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