みなさん、こんにちは!連載・みんなのあさごはん!の水島早苗です。
私は「自分でカフェを作ってみたい」という思いがあって、朝ごはん探検の旅に出ました。その中で、あるザッハートルテに魅せられ、ウィーンでカフェ修行をしてきました!その経験から、夢が「ウィーン風のカフェを作りたい!」という方向に定まりました。その一部始終を4回にわたり報告したいと思います。
去年の8月頃でした。カウチサーフィン(地元の人の家に泊めさせてもらうマッチングサイト)には、ローカルアドバイス(街の情報など)を得られる掲示板があって、そこで食べ物の情報収集をしていたときのことです。
掲示板の中で「自宅でケーキを作る」という話題に発展し、「誰かケーキ作りを教えてくれませんかー?」と尋ねてみたところ、ある女性からこのような書き込みがありました。
「私はケーキやジャムをよく作っているわ。もし興味があるなら家にいらっしゃい」
ウィーンの郊外の自宅で待っていてくれたのがクリスティーネとノベルトです。
お宅に到着すると、クリスティーネはオーストリアの有名なケーキ・ザッハートルテで出迎えてくれました。
日本のケーキ屋さんでもザッハートルテはよく目にしますよね。それは見た目も綺麗だし、材料も美味しいチョコレートを使っていている人気のケーキ。美味しいはずなのです。しかし、私はなぜかそのケーキがあまり好きではありませんでした。ウィーンのお店でもいろんなザッハートルテを食べたのですが、やっぱり好きになれませんでした。
それなのに、クリスティーネのザッハートルテが今まで食べてきたどんなケーキよりも美味しいと感じたのです。とても優しい味でした。ケーキ屋さんでは味わったことのない味。「こんな美味しいケーキを作ってみたい!」と強く思いました。
カフェを作りたいというぼんやりとした夢が明確になった瞬間でした。こういうケーキを作って、お客さんに食べてもらって、小さいけれど温かいハッピーを共有できるようなカフェを作りたいなぁと考えるようになりました。
そのためにはレシピを学ぶだけでなく、オーストリアやウィーンのことを知り、彼女の生活スタイルや考え方に触れながらカフェ修行をしようと決め、クリスティーネ夫妻に相談しました。
ケーキのレシピも大事ですがそれよりも、丁寧に作ること、親切にもてなすこと、食べるときの雰囲気作り、彼女の人柄など全てがこのケーキの味を出しているのだと感じたからです。
クリスティーネ夫婦は快諾してくださり、気候のいい頃にまた戻ってくる約束をして、ウィーンを去りました。
ドイツ・オーストリアはオーガニック先進国です。日本よりもオーガニック製品が安く、さらにオーガニックで衣料品からビールまで、とにかくなんでも揃います。
以前、私がドイツで修行をしていたパン屋はオーガニックのパン屋だったのですが、オーガニックという名で売るためには、使うもの全てがオーガニックでなくてはならず、パンを取り出しやすくするために型に塗る油までもオーガニックを使っていました。オーガニックを実践することは何て難しいんだろう、と思っていました。
ところが、それを覆してくれたのがクリスティーネ夫婦の暮らしでした。彼女たちは、まさに自然体でオーガニック生活をしていたのです。
クリスティーネ夫婦はウィーン郊外の大きな庭のある家に住んでいます。散歩もできるくらいに広く、りんご、杏子、くるみなどの木が植えられており、収穫時期になるとそれぞれをジャムにしたり保存できる状態にして、無駄にならないようにします。
トマト、パプリカ、レタス、ナス、キュウリなどの野菜もここで育てられています。お二人とも仕事を持っているので、森のように広い庭の管理は本当に大変だと思います。「大変だけど、これが自分の好きなことだから」と有意義にいつも働いていました。
春なので苗を植える支度を整えている最中でした。写真左に咲いているのはりんごの花です。
大きな庭付きの家に住むお金持ちに感じるかもしれませんが、彼らの生活は慎ましいという言葉がぴったりです。彼らのポリシーに「ものは壊れるまで買い替えない。食べ物も無駄にしない」ということがあるそうです。
ケーキを焼く型も壊れるまで買い替えたりしません。これは100年以上前から代々家に伝わる型です。現役の骨董品とも呼べるのではないでしょうか。
そんな働き者のクリスティーネ夫妻ですが、その代わり食事にはたっぷりと時間をかけます。
夫婦で仲良くキッチンに立っている姿をよく見かけました!とても仲良しです。
ウィーン郊外には森が広がっており、ウィーンの森と呼ばれています。そこに散歩に行ったときのことです。
「今、熊ネギがシーズンだから摘んで帰ってスープにしましょう!」とクリスティーネから提案があり、二人で摘んで持って帰りました。
スープを作りました。ニラに似た味の野菜で、これをペーストにしてクリームと塩胡椒で味をつけます。近くの散歩道で採れた自然の恵みをいただくなんて、素敵ですよね!
クリスティーネの旦那さんのノベルトは庭仕事だけでなく、ウィーンの森で狩りもしています。ウィーンの森ではワインを作るためのブドウが採れるのですが、ここ最近は生態バランスの崩れからイノシシが増え、ブドウを食べられる被害が出ているそうです。イノシシ狩りは趣味にとどまらず、ブドウを守るための社会的な役割も担っているということを聞きました。
そしてその命は無駄にせず、自分たちでイノシシを解体し、こんなふうに食卓にものぼります。ハンガリー料理でおなじみのウィーン風のグーラッシュです。ウィーンの森をストレスフリーで走り回って生きてきたイノシシの肉はオーガニックであることは間違いありません!
食べきれず硬くなってしまったパンも無駄にしません。パン粉にして、
ウィーン名物のシュニッツェルを作りました。日本でいうトンカツに当たる料理なんですが、薄く伸ばしてレモンを絞っていただきます。パン粉が新鮮なのが嬉しいシュニッツェルです!
白アスパラは緑のアスパラに比べてアクが強いので、硬くなったパンを砕いて一緒に茹でるとアスパラのエグ味がなくなるんだそうです。
さらに、アスパラの左上に添えられているパン粉とバターを炒めたものをつけながらアスパラをいただきました。とろけるような甘みがあってとても美味しかったです!
お菓子を作るとき、卵は卵黄だけを使う場合もあります。このときも、クリスティーネは決して卵白を捨てたりしません。卵白は取っておいて、他のケーキにたっぷり使います。
スポンジ生地の上に卵白で作ったメレンゲと酸っぱいベリー「アカスグリ」を混ぜて焼きます。上に乗せたメレンゲが多いほど美味しくなるんだそうです。捨てられるはずだった卵白が豪華に変身しました!
私はここで、ケーキ以外のこともたくさん学ぶことができました。
ものを大事にする、誰かのためにいいことをする、自分の好きなことをする、それも自然体で無理をしない、ということ。
言葉で言うのは簡単ですが、それを実践している夫妻と過ごしたことで、カフェ修行にとどまらず、帰国後の人生をどんなふうに生きていくか?というところまで考えることができたような気がします。
次回はクリスティーネから学び、試行錯誤しながら作ったケーキを紹介したいと思います!
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