2012年3月、ある東大生が世界一周に出発しました。「東大まで行ってなんで?」。そんな一般人の素朴な疑問に、彼はぶっちゃけて答えてくれました。
今日はデスクが世界一周中に出会ったある東大生・どきゅん東大生のインタビューをお届けします。旅のことというよりむしろ、どんな経緯があって「東大生が旅に出ることになったのか?」にフォーカスして聞いてきました。そこには、東大生ならではの切実な想いがありました。
ーー今日は、どきゅんがなぜ世界一周したのかについて聞いていくのでよろしく。
あの……。
ーーん?
ものすごく言いにくいんですけど、僕……世界一周してないんですよ。
ーーまたまた。謙遜しなくていいから。
いや、違うんです。僕、途中でリタイアして帰ってきたんですよ。
ーーほんと?
です。
ーーじゃ、どこまで行ったの?
イタリアですね。世界半周です。フィリピン→タイ→カンボジア→タイ→インド→エジプト→イスラエル→イタリア→ギリシャ→トルコの計4ヶ月です。
※想定外の事実が発覚しましたが、本インタビューの趣旨は「ひとりの東大生が世界一周することになった思考のプロセス」にあるためインタビューを続行します。
ーーまぁいいや。で、なんで世界一周することにしたの?
一番は父と母が見た世界を見たかったというのがありますね。
ーーどういうこと?
30年前、旅人だった僕の父と母はギリシャで出会ったんです。数年後、ふたりはギリシャで結婚式を挙げて、産まれたのが僕です。
ーーいきなりロマンチックな話だな。
連絡手段とか一切ない時代ですからね。実は、父と母はギリシャで出会う前にどこかの国で一度会っていたらしいんです。その後、トルコとギリシャの国境で(ギリシャから)トルコへ入国しようとしていた父と、(トルコから)ギリシャへ出国しようとしていた母は再会を果たしたんだそうです。
ーーますますロマンチック……。
旅には、ふたりがちょうど結婚20周年だということで、結婚式を挙げた教会を写真に撮ってきて見せてあげるという裏テーマがありました。
ーーどきゅんていい奴だな。
というより、両親がやっていた旅というものに興味がありました。ふたりがやっていたのならそれは超えないといけないって。
ーー旅に出た理由で他に思い当たることは?
当時、大学3年の終わりだったんですが、就職で悩んでいたんですよね。ある企業から内定をもらっていて、本当にそこに行っていいのかなって。
ーー希望する企業じゃなかったの?
はい。それに、こんなに簡単でいいのかなって。人事の人と一度お酒を飲みにいっただけで「内定あげる」って言われて……。名の知れた大企業でした。
ーー東大ともなるとそういうことがあるんだね。
東大生なら誰でも入れる企業というのは実際あります。でも、それだけで評価されるのは絶対嫌だったんです。
ーー東大生ってほんとにそういう悩みを抱えているんだね。
どうなんでしょう。でも、周りが東大生だと「自分が何かの部分で飛び抜けていないといけない」とはずっと思っています。
ーーどういうこと?
だって、東大に入った瞬間、勉強では「こいつらには絶対敵わない」って悟りましたからね。僕は世間一般で言う「勝ち組」に入れたのかもしれませんが、そこには大きな壁があったということです。
ーー壁というと?
才能の壁ですね。僕の人生ずっとそれとの戦いですね。
ーーどきゅんていつから東大目指してたの?
中3の時、絶対東大に入るって決めました。当時、僕はある中高一貫の進学校に通っていたんですけど、ある日、「この学校では東大に行けない」と悟ったんですね。それで、かなりイレギュラーだったんですけど、別の中高一貫の進学校に編入したんです。
ーーそこまでしてなぜ東大に入りたいと思ったの?
それはやっぱり、ナンバーワンになりたかったからですね。
ーーうーん。その感覚が俺みたいな一般人には分からないんだよなぁ。
僕の小学校って学年で10人しかいなかったんですね。そこで僕、トップだったんですよ。次のレベルに行きたくて中学は中高一貫の進学校を受けました。でも中学に入ってすぐ先生に言われたんですよ。「君、一番下だから(入試の結果が)頑張らないといけないよ」って。
ーーそんなこと言うんだ。
そこから頑張って、初めてのテストでクラスで唯一100点とったんです。先生に褒められて、それがめっちゃうれしくて……。全寮制の学校でTVも漫画も禁止だったんですけど、むちゃくちゃ勉強して順位をどんどん上げて中3の頃には学年で2位とか3位になったんです。中2の時は人生で一番勉強しましたね。でも、1位にはなれなかった。
ーーそれで?
ある日、授業中、隣の席の奴がジャンプ読みつつ、ゲームをしてシコってたんです。それを見て「ここじゃ東大に行けない」って心底思った。
ーー編入した高校ではどうだったの?レベル高かった?
そうでもなくて、「ここにいれば東大に入れる」っていう安心感のほうが大きかったです。
ーーそこではトップになりたいって思わなかったの?
それはあまりなかったですね。「東大に行ければいいや」って感じで、のんびり部活なんかやったりして。
ーーそこでトップになっても、結局行くのはみんな東大だから?
それはあったかもしれませんね。
ーーさっき言ってた東大に入って当たった壁についてなんだけど。
例えば、同じ授業を受けていても「自分だけわかっていない」というのを感じる訳ですよ。テストでも全く勉強してない人に負けることが平気である。だから、1年のころから自分は「変わっていなきゃいけない」というのがありました。決定的だったのが2年から3年に上がる時で……。
ーー何かあったの?
東大というのは入った時には学部みたいなものはなくて、3年に上がる時に専門分野を選ぶ訳です。僕は「ラクそうだし、点数もいらない」という理由で工学部に入ったんですけど、周りの奴らがすごくて。
ーー何が?
僕の専攻は土木だったんですけど、彼らの例えば「ダム」だとか「橋」にかける情熱が異常なんですよ。それを見てなんか一気に冷めたというか。俺は「ダム」だとか「橋」にここまでアツくなれないって。それは格好よくないって。
ーー大変だったんだね……。
これまで、僕の中でのアイデンティティーは東大だったのですが、もっと確固たるものが欲しいと思いました。そんな時に「世界一周」のことを知ったんです。
後編へ続く
取材協力:どきゅん東大生
文:デスク
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