シメイビールをはじめ、日本でも人気のトラピストビール。中でもベルギーの「ウェストフレテレン」は醸造量が少なく、卸売をしていません…。ビール愛好家から「世界で一番美味しいビール」と呼ばれるそれを飲みに行ってきました。
連載・世界酒場放浪記の三矢です。今回はベルギー西部で醸造されている伝説のビールを飲みに行ってきました。
修道院で作られるビール
今回僕が飲みに行ったビールの銘柄はウェストフレテレン。世界に11種類あるトラピストビールのうちの一つです
トラピストビールは、トラピスト会修道院で作られる上面発酵ビールの呼称である。 世界の171あるトラピスト会修道院のうち8箇所のみで生産されている。 これらの醸造所では、トラピスト会修道士の協会によって定められた規則を遵守することで、トラピストビールのロゴが入ったラベルと名称の使用が認められている。(Wikipediaより引用)
余談ですがWikipediaでは8種類となっていますがその後数が増えてトラピストビールは現在11種類あります。詳細はコチラ。
日本でも買える銘柄は多く、シメイビールは飲んだことがある人も多いのではないでしょうか?
ウェストフレテレンが「伝説」と呼ばれる理由
11種類あるトラピストビールのうち今回僕が飲みに行ったウェストフレテレンは醸造量が少なく、また卸売をしていないので基本的には修道院に行かないと買うことができません。
どれだけレアなビールなのか、Wikipediaにはこう書いてあります。
シクスタス修道院はトラピストビールの商業的な販売には消極的で、 「訪れた人にできるだけ買う機会を与える」をモットーとして、 トラピストビール醸造所の中で唯一、業者への卸販売を行っていない。 また醸造量も少なく、年間475キロリットルしか生産していない。
ビールの販売は不定期で、院の前に小さい看板を出して販売を告知する。 販売を開始したと話を聞きつけた購入者が車で来院するため、周辺では順番待ちの行列が出来る。 販売はドライブスルー形式で「車1台につき1ケース」(1ケース24本)までと厳しく制限されている。 車のナンバーを控えられるため、同じ車で並び直しても当日に再購入することは出来ない。
僧院にある販売所では随時購入できるが 「Niet verder verkopen(転売しないこと)」と印刷された紙を手渡される。(Wikipediaより引用)
ただし世界のどこにも転売厨はいるようで、ブリュッセルのビール専門店などで売っていることには売っています。ただし、法外な値段で。
あるビール専門店では330mlの瓶が1本11~12ユーロ(真ん中の黒い瓶がウェストフレテレンです)。
フランス系のスーパー・カルフールエクスプレスでは若干安くて約8~9ユーロ。
330mlの瓶が1本1,000円以上するなんて!
しかも聞くところによるとブリュッセルなどで売っていることウェストフレテレンは保存状態が良くないことが多く、高い値段を払った上に質の悪いビールを掴まされることも少なくないのだとか。
となれば、ビールヲタクとしては現地に行かねばなりません。
ウェストフレテレンまでの長い長い道のり
僕はウェストフレテレンが醸造されているシント・シクスタス修道院へゲントから日帰りで行くことにしました。
朝早くに宿を出て、まずは電車でポペリンゲと言う街を目指します。
電車の遅延、目的の駅に行く途中でなぜか折り返し運転に遭遇、振替バスに乗車などの紆余曲折を経て、本来到着する予定より2時間近く遅れてポペリンゲの街に到着しました。
ここポペリンゲの街はビールの原料ホップの産地として有名だそうです、街の中にホップをモチーフにしたものが沢山あります。
ポペリンゲに着いてもまだまだ安心はできません。ウェステフレテンを醸造しているシント・シクスタス修道院はポペリンゲの街から約6km離れた郊外にあり、そこに行くバスの本数はなんと……1日に4本しかないそうです。しかも朝昼夕夜各一本なんだとか。
ということで歩きます。
ポペリンゲの街を出るとすぐに美しい牧歌的な景色が広がります。
ポペリンゲはホップの産地ということで至るところにホップ畑が広がっています。
シント・シクスタス修道院が近づくにつれて、2時間近くロスしたことで売り切れているのではないかという不安と、ついに伝説のビールが飲めるという期待がせめぎあいを始めます。
ようやくシント・シクスタス修道院が見えました!(奥の白い建物がそうです)
シント・シクスタス修道院に到着!
ででん!ポペリンゲの駅から1時間、宿を出てから4時間半かかってようやくシント・シクスタス修道院に辿り着きました!
修道院は関係者以外立ち入り禁止なので、近くに併設されたバー兼ショップIn de vredeに行きます。いよいよです。いよいよ伝説のビールが飲めるのです。
念願のウェストフレテレンをお買い上げ
バーに行く前にまずはお持ち帰り分のウェストフレテレンを確保します。数量限定なので買い損ねるわけにはいきません。
僕が辿り着いたときの在庫はこんな感じでした。何はともあれウェストフレテレンを買うことができることが分かってホッと胸をなでおろしました。
さすがに一人旅で何箱も購入できないので(購入は箱単位なのです)僕が購入したのは一番高級でもっとも評判の高いウェストフレテレンアブト12、一箱6本入りでお値段なんと22.5ユーロ!一本当たり3.75ユーロ(約462円)です。これでも十分高いですが、ブリュッセルなどで売られているウェストフレテレンがいかにボッタクリかが分かります。
ラベルが貼ってありませんがこれがウェストフレテレンの特徴。卸売りをしないのでラベルが必要ないのです。銘柄は王冠の色で見分けるようになっていて、ウェストフレテレンブロンドが緑、エクストラ8が青、アブト12が黄色になっています。
ちなみに残りの二銘柄ウェストフレテレンブロンドが一箱17.5ユーロ、ウェストフレテレンエクストラ8が一箱18.5ユーロでした。
併設のバーIn de vredeへ
ビールを購入したところでバーに移ります。バーはかなり広く洗練された印象を受けました。
ベルギーのビールは銘柄ごとに専用グラスがあることがほとんどです。こちらがウェストフレテレンのグラス。ショップで購入もできます。僕も喉から手が出るほど欲しかったのですが、旅行中に絶対割ると思ったので泣く泣く断念しました。
こちらがこのIn de vredeでのむウェストフレテレンのお値段。ブリュッセルのバーなどで他のベルギービールを飲むと一杯3.5ユーロくらいなのでかなり強気の値段設定です。でも飲みます。ウェストフレテレンの樽生ビールはここでしか飲めないのです。
1杯目:ウェストフレテンブロンド
まずは一番アルコール度数の低い、ブロンド(3.9ユーロ)。アルコール度はウェストフレテレンで一番低い5.8%。柑橘系の爽やかなアロマが漂います。
飲んでみた感想は、…うーん、確かに美味しいけど、そこまで評価されるほどかな?このくらいなら他のベルギービールでも十分というちょっと残念なものでした(個人の感想です)。
気を取り直して…
2杯目:ウェストフレテレンエクストラ8
ウェストフレテレンエクストラ8(4.5ユーロ)を注文します。、ブロンドとは打って変わって黒褐色。こちらのアルコール度数はその名の通り8%
飲んでみた感想は、「なんじゃこりゃ、う…うめぇぇぇぇえええええ!!!!」
こんなに美味しいビールは飲んだことがない。
複雑に絡み合ったホップとモルトのアロマ、プラムのようなフルーティーさを感じます。苦いけど苦すぎず、甘いけど甘すぎず、酸っぱいけど酸っぱすぎず、それでいて8%というアルコール度数の高さを感じさせない飲み口。これまでベルギーで、世界で美味しいビールはたくさん飲んできましたが、一瞬でトップに躍り出ました。美味しいビールに必要な各要素がすさまじく高いレベルで見事に調和しています。ここに来るまでの苦労が一瞬で報われました。
パッと見た感じでは黒褐色ですが日の光にさらしてみると濃いルビーのような赤い色をしています。
ウェストフレテレンに合うおつまみ二品
In de vredeではもちろんビールを飲むだけではなく食事もできます。せっかくここまで来たのでビールに合うおつまみを二品頼んでみました。
一品目はアビーチーズ(3ユーロ)、アビーは英語で大修道院の意味でここで作られているチーズです。さっぱりしてるけどコクがあってビールに合う!
二品目はアビーパテ(3ユーロ)、濃厚なパテでこれまたビールに合う!!
3杯目:ウェストフレテレンアブト12
最後に注文したのが多くのビール愛好家から世界で一番美味しいビールとも言われているウェストフレテレンアブト12(5.1ユーロ)。エクストラ8よりもさらに濃い黒褐色でアルコール度数は10.2%(昔は12%あったそうです)。
飲んでみた感想は、「濃!厚!!」
エクストラ8よりもさらに苦く、さらに甘く、アルコールの辛さがより際立ち喉ごしもずっしり。かなり濃厚なビールです。舌の肥えたビール愛好家が世界一と太鼓判を押すのも納得のビールです。
(エクストラ8の時とだいぶテンションが違いますが個人的にはエクストラ8の方が好みです(ブロンドとの落差が大きかったというのもあると思いますが))
バー内には博物館も
バーには小さな博物館が併設されていて、修道院らしくまず教会があり、その後修道院での生活の様子やビール醸造の様子などが展示されています(博物館内は写真撮影禁止です)。
朝早く出てきたにも関わらず帰る頃には夕日がベルギーの大地に沈んでいきました。今日1日やりきった感でいっぱいです。
ベルギーでしか飲めないから価値がある
実は僕がベルギーを訪れた最大の目的はこのウェストフレテレンを飲むことでした。ベルギーでは日本で高価なビールが比較的安く手に入ります。それでも、お金を多少多く払えば日本でも買えるビール。今回のベルギー訪問では何としてでも行かなくては飲むことのできないビールを飲みたいと思っていました。
その夢が叶った今思うことは、またこのビールを飲みにベルギーに来たい、でした。一杯のビールを飲むためだけに飛行機を、電車を乗り継ぎ来る価値がある。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが僕は本当にそう思いました。というか死ぬまでに絶対また来ると思います。ビールの世界の深さを再確認したウェストフレテレンだったのでした。
In de vrede
住所:Donkerstraat 13、8640
ウェブサイト:indevrede.be
電話番号:+32 57 40 03 77
日本でも飲めるセント・ベルナルデュスアブト12
そんなこと言ったって普通の人はビール飲むためだけにベルギーまで行けないよ!という方がほとんどだと思います。そんなあなたにおすすめなのがこちら。セント・ベルナルデュスアブト12。
なぜこのビールがオススメなのかと言うと、まずこのビールは日本でも入手が可能です。そしてなによりセント・ベルナルデュスアブト12はウェストフレテレンのシント・シクスタス修道院から委託醸造を行っていた醸造所で、ウェストフレテレンのレシピを受け継いで作られているからです。また東京にはセント・ベルナルデュス醸造所の公認を受けた「ブラッスリー セント・ベルナルデュス」というお店がありそこでも飲むことが出来ます。
日本で飲んでその美味しさに魅了されたなら、ベルギー行きの航空券を買っちゃいましょう!
ブラッスリー セント・ベルナルデュス
住所:東京都千代田区内神田3-6-2
ウェブサイト:http://www.sintbernardus.jp/
電話番号:03-6206-8269
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