国として認められていない「独立国」??ナゴルノ・カラバフで僕が見たもの

2015.04.25 11:00 
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ナゴルノ・カラバフを代表する見所、「我らの山」。

 

こんにちは!極貧パッカーの植竹智裕(うえたけともひろ)です。世界一周中の僕は、現在この辺りに居ます。
 

 

国際的に国として認められてない「独立国」

僕は3月の中旬にナゴルノ・カラバフという国にいました。「そんな場所、学校で習ってない!」と思う人も多いはずです。この国、実は他のどの国からも「国」として認められていない自称「独立国家」なのです。だいぶ前に独立主張のある地域一覧(Wikipedia)を見て以来、比較的安全に旅をする事が出来るナゴルノ・カラバフは僕にとって行ってみたい「国」の一つでした。写真はナゴルノ・カラバフの旗です。
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ナゴルノ・カラバフとは?
「アゼルバイジャンの西部にある地域。アルメニア人が多く居住しており、ソビエト連邦の時代は
ナゴルノ・カラバフ自治州が設置されていた。ソ連崩壊後はアルメニアへの合流を求めてナゴルノ・カラバフ共和国(アルツァフ共和国と自称している)として1992年1月6日に独立宣言し、ナゴルノ・カラバフ戦争となった。停戦後、自治州時代の領域を越えてアルメニアと接するようになり、アゼルバイジャンの9%を実効支配するようになった。現在は事実上独立しているが、アブハジア、南オセチア、沿ドニエストル以外に独立を承認している国はない。首都はステパナケルト」(Wikipediaより引用)

 

国際的にはアゼルバイジャンの国境内にある事になっていますが、実質的にはアルメニア人が実効支配していてアルメニアからしか入国する事が出来ません。首都ステパナケルトの場所はこの辺り。
 

 

特殊な入国方法

国際的に認められていない国の為、入国方法も少し異なっていました。地図上ではこちらの赤い線がアルメニアとアゼルバイジャンとの国境ですが……
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車(乗り合いタクシーで入国しました)は国境を越えた後もしばらくは荒涼とした山岳地帯を走ります。
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通常、陸路で国境を越える場合は両国の出入国管理所でパスポートを提示、スタンプを押して貰って手続きを済ませる必要がありますが、こちらにはアルメニアの出入国管理所は無く、道路沿いにある「ナゴルノ・カラバフ政府」のチェックポイントに立ち寄ってパスポートを提示して台帳に氏名とパスポート番号を記入するのみ。つまり、アルメニアからは出国していない扱いになり、ナゴルノ・カラバフが実質的にはアルメニアの一部である事が窺えます。
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旅行者は首都ステパナケルト(人口約5万人)に到着後、自ら外務省に行き、ビザを取得する事が義務付けられています。ナゴルノ・カラバフで使われている通貨はアルメニア・ドラム。3週間有効なビザが3000ドラム(約753円)でした。
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パスポートにナゴルノ・カラバフのビザがあるとアゼルバイジャンに入国できなくなる為、ビザはこのようにシールのまま渡されます。
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そして出国時はビザ取得時に貰える登録証(下写真)をチェックポイントで提出するのみで、パスポートの提示は不要。行きも帰りも乗り合いタクシーを使いましたが、同乗していたアルメニア人は何も提出していなかったので、両地域のアルメニア人の行き来は自由に出来るようです。
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首都は意外にも平穏な雰囲気

停戦中の国というと街は荒廃しているイメージでしたが、到着した首都ステパナケルトはそんなイメージを覆しました。ソ連時代に建てられた建物が多いからでしょうか、アルメニア・アゼルバイジャンどちらの郊外都市ともあまり変わらない印象を受けました。
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物資はアルメニア経由で入って来るので、街中には衣料品や食料、
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家具からスマートフォン、パソコンまで豊富に揃っていました。
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国の象徴

停戦中でありながら、アルメニアとセットで訪れる旅行者も多いナゴルノ・カラバフ。では一体、旅行者は何を見る事になるのでしょうか。ナゴルノ・カラバフを代表する見所で、訪れた旅行者が必ずと言っていい程訪れる場所が中心部から歩いて20分程の丘の上にあるこちら。我らの山、またはタティック・パピックと呼ばれています。
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ナゴルノ・カラバフに住むアルメニア人の民族的な象徴として国章にも刻まれていました(写真中央)。
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知られざる見所

観光案内所で紹介して貰い、タクシーをチャーターして一日がかりでナゴルノ・カラバフの区域内にある見所を周ってみました。首都から車で30分程走るとそこは息を飲むほどの大自然。
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しばらくは農村地帯を走ります。
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ステパナケルトから車で北西に3時間の所にあるダディヴァンク修道院。9世紀頃建てられたものだそうです。
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ダディヴァンクから更に車を30分、今度は急峻な崖の合間を進みます。
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そして辿り着いたズアラという村には……なんと天然の温泉!
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既に下着姿で温泉を楽しんでいた数人の男性が快く迎えてくれました。
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そして、こちらは首都から南に6キロほど離れたシュシという街にある大聖堂。アルメニアと同様、こちらでもキリスト教の教会をよく目にします。
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キリスト教徒が多いアルメニア人に対して、追放されたアゼリー人のほとんどはイスラム教徒でした。シュシの街にはモスクも残されていますが、アゼリー人が追放された今、この街にイスラム教徒は居ないそうで、モスクは荒廃しています。
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どんな人が住んでいるのか?

街の人々はというと……とにかく大人も子供もやんちゃ!まるでイメージとは正反対の平和な印象を受けました。街を歩いていると、このように声をかけられ、アルメニア語かロシア語で大騒ぎです。英語が通じずあまり会話が噛み合わないのが残念ですが、言葉の違いをまるで気にしない勢いでした。
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こちらは宿で知り合った現地人です。「アゼルバイジャンとアルメニアどちらが好きか?」という質問もたまに受けました。同じような質問をアゼルバイジャン滞在時も受けました。21歳以上、つまりほとんどの大人が戦争を経験している場所なので、やはり自国と敵国に対する外国人からの評価は気になるようです。
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街に残る戦争の爪痕

自然にも恵まれ、歴史的に価値のある建造物も多く抱えるナゴルノ・カラバフ。中心街では平穏な雰囲気が漂い、あまり戦争の影響を感じる事はありませんでしたが、首都の南西数キロ地点まで歩いてみると、丘の斜面には廃墟が並んでいました。
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果たして戦争で砲撃を受けて廃墟になったのか、追放されてしまったアゼリー人の住宅だったのかは分かりませんが、こういった廃墟が今なお手つかずのまま残されています。
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こちらは首都にある共同墓地です。お墓なら大抵はどの都市でも見かけますが、よく見てみるとここにも戦争を物語る証拠がありました。
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墓石を見てみるとほとんどの人が1992年から1994年、つまりナゴルノ・カラバフ戦争中に亡くなっていました。停戦中とは言ってもやはりここは紛争の中心にある場所だという事を痛感しました。
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独立問題を抱えた国は世界中にある

街中では概ね穏やかな雰囲気が漂ってるナゴルノ・カラバフですが、停戦ラインでは現在でも時々衝突が起こっているそうです。祖国への統一を願うアルメニア人、そして追放されてしまったアゼリー人。誰が加害者で誰が被害者なのでしょうか。民族の違いや、長く続いたソ連時代の境界線、当事国同士の虐殺事件など複雑な問題が絡み合っている為、問題が解決するのはまだまだ先の事になりそうです。

近年ではアブハジアクリミアなどの独立問題を日本のニュースで目にする事もありますが、学校で教わる「国」だけが全てではなく、実はこうした独立問題を抱えた国は世界中に点在しています。この記事が世界で起こっている独立問題と、そこに暮らす人々に関心を持ち、知るきっかけになれば幸いです。
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文・写真:植竹智裕
HP:週刊!植竹智裕の気ままに世界探検ブログ

 

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植竹 智裕
1986年、東京都多摩市生まれ。会社を辞めて早5年、世界一周・旅行記出版を夢に俳優業など手を出しつつゆるやかに資金を貯めてきた植竹、ついに日本を飛び出し世界から色々な体験記をお届します! 帰国後のお仕事のご相談もお待ちしております!旅のオフショットはインスタで。ブログTwitter

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