シリーズ「スペイン巡礼」第5回(最終回)。最後の日、夜な夜な集まる巡礼者たち。とあるビーチで神聖な夜が始まろうとしていました…
こんにちは。焚き火といえばサツマイモよりもマシュマロ派な旅人のカイです。
スペイン巡礼の最終夜にフィニステーラのビーチで行われる焚き火に参加してきました。
ただの焚き火と侮るなかれ、巡礼最後の夜に囲む焚き火は、巡礼者たちの思いの丈がいっぱい詰まった時間だったのです。
第1回 >> 800km歩くスペイン巡礼で絶対にスルーしてはいけない7つのスポット
第2回 >> 徒歩で800km旅するためにはこれだけの荷物が必要【スペイン巡礼】
スペイン巡礼の焚き火を主催する、とある無料食堂
焚き火を主催するのは「the world family」という名のレストランバー。
前回紹介した「世界の終わり」と呼ばれる町フィニステーラの片隅にそのカラフルなお店はあります。
このお店、普段は普通のバーですが、夜6時半になると無料(寄付制)で夕食を提供してくれます。
夕食を目当てに、また独特の雰囲気を楽しみに、多くの巡礼者が集まります。
食堂内の装飾は独特でアーティスティック。
でも不思議と居心地は抜群で何時間でも長居できそう。ステレオから音楽がかかっていたり、即興でセッションがはじまったりと、音楽が絶えず流れています。
夕食を食べ終わってしばらくしたら、バーでお酒を購入してビーチへ向かいます。
巡礼最終日のメインイベント、焚き火の時間です。
夕暮れのビーチで最後の「ブエン・カミーノ」
夕日が沈み切る前に目的のビーチに到着です。太陽の置き土産のようなオレンジが空をうっすら染めています。
上を見上げると一番星が。まさに昼と夜の境界線。
そんな幻想的な景色を眺めながら、多くの巡礼者たちが焚き火の準備ができるのを待っていました。
一人で、または親しい友人と肩を並べてビーチに座っています。
波の音と薪を準備する音の中で、巡礼者たちは巡礼最後の夜を噛み締めていきます。
「Buen Camino」誰からともなく声が上がり、ハグする人の姿もありました。
ブエン・カミーノ、良き巡礼を。毎日何回も言い合ったおまじないみたいな挨拶は、この日はなんだか少し切なさも含んで響くのでした。
いざ、焚き火のスタート
陽が完全にくれたらいよいよ焚き火のスタートです。
ビーチの奥にある岩場の奥まった場所で、大きな焚き火が燃えていました。
焚き火を囲むように30〜40人くらいの人が座っています。
ワインの瓶を持っている人、ギターを演奏している人、ただその場に座り炎を眺めている人など、各々自由に楽しんでいるようでした。
筆者も友人とともにその場に座り、回し飲みでワインをちびちびやりながらその場の空気を楽しみます。
ギターの音と歌声が本当に心地よく、ワインもいつもより回りが早い気がしました。
「あなたにとってスペイン巡礼とは?」大切な分かち合いの時間
焚き火を眺めながら音楽を楽しんでいると、隣に座っていたイタリア人の男の子が話しかけてきました。
その男の子は私が歩いたフランス人の道ではなく、ポルトガルを南から北へ歩くポルトガル人の道を歩いてきたそう。
「僕の巡礼はとてもスペシャルだった。君のはどうだった?」「きみにとって、カミーノはどんな意味があった?」
イタリア人の男の子は自分のカミーノの思い出を話しながら、わたしにもそう質問してきました。気がつくと周りでは、同じような会話が其処此処で交わされています。
焚き火は煌々と燃えていて、オレンジの光が巡礼者の顔を明るく照らしていました。
その暖かくゆっくりした光の中で、巡礼者たちは一人一人、「自分のカミーノ」について語っていきます。静かに、自分自身に語かけるように。
「分かち合い」と呼ばれるその時間は、巡礼者が自身の体験を他の巡礼者に共有する時間。
カミーノはそれを歩いた人にしか理解できないことが多分にあると筆者も思っています。
たかが800km、されど800km。しかしその中には、言葉では言い表せない様々なドラマと感情の波があり、カミーノを決意した理由も人それぞれ。
そういったものを巡礼者同士でシェアし、分かち合うのです。
「Camino es especial」(カミーノって特別だよね。)
歩いたものだからこそわかりあえる言葉が交わされます。
なにがどうスペシャルなのかは歩いた人だからわかるもの。各自が持っている各自の“スペシャル”を共有する、それが焚き火の目的でもあるのです。
こうして、巡礼者同士の様々な思いが交わっていきます。
焚き火は巡礼最後の夜を静かに彩る
歌って、笑って、語り合って、焚き火を囲みながらの最後の夜はどんどん更けていきます。
そして一人また一人と、焚き火を離れて寝床へと帰っていくのでした。
日々22時就寝の6時起きがこの一ヶ月の日課になっていた筆者は、0時を過ぎたあたりでギブアップ。
残っていた人にお別れのハグをして友人と一緒にアルベルゲへ帰ることにしました。
この伝統の焚き火は毎日、日の入りとともに開始され、深夜遅くまで続くそう。
毎日新しい巡礼者を迎え、その最後の夜を彩り、そして毎日、こうして巡礼者を送り出しているのです。
「これがないと終われないよね」
スペイン巡礼5回目という巡礼のスペシャリストのようなおじさんがそう言っていました。
今回はじめて参加した筆者ですが、なんとなくその意味がわかるような気がするのでした。
スペイン巡礼の最後の夜、あなたはどう過ごす?
巡礼最終夜に開かれる焚き火、いかがでしたでしょうか。
ただ焚き火を楽しむ夕べという意味ではなく、旅の終わりにこの一ヶ月は自分にとってどんな意味があったのか、巡礼とはなんなのかを落とし込む良い時間となりました。
「今日でカミーノは終わりかもしれないけれど、あなたのリアル・カミーノ(本当の道)は続いていきます」
焚き火を起こしてくれた食堂スタッフの一人がそう語りかけてくれました。
今日は終わりではなく始まりなんだよ、とも。ビーチでの焚き火は、巡礼最終日を祝うとともに、新しい一歩への祝福の炎でもあるのでした。
巡礼仲間とカミーノの体験と気持ちをシェアする最後の焚き火。フィニステーラに辿りついたら、ぜひ参加してみてください。
巡礼最後の特別な夜になるでしょう。
以上、スペインよりカイでした。
カイリカコ
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